vol.42
篠原猛史 Takeshi Shinohara 宮﨑豊治 Toyoharu Miyazaki 吉田和司 Kazushi Yoshida
イメージの世界 コレクションを中心に
2012.2.25-3.11
1974 年ライフサイエンテイストであるライアル・ワトソンはヴェニスで不思議な現象を目の当たりにする。あるイタリア人一家の5 歳の少女の手のひらの上でテニスボールが一瞬にして反転され裏返しになり内側のゴムが外側になったのだ。依然として圧搾空気を内蔵し、床に落とせば弾むテ二スボールをナイフで切り裂き、空気をシューッと出すと、内側は何の変哲もない毛羽立つたあのテニスボールの黄色い生地が現れた。
ワトソンは著書の中でその時の感情をこう記している。
ーそれは今でも私を焦燥に駆り立てる。割れ目の無い球を手袋のように裏返すことなど不可能だ。その程度の物理学の知識は私にもある。われわれの知る現実の世界ではありえないことなのだ。(中略)こうしてこのテニス・ボールは私にとって一種目象徴になった。生命に対する新しいもうひとつのアプローチの顕現。もうひとつのものの見方。(中略)旧科学と新たな必要とを分断している袋小路を突破するには、確かに、ものごとを別の方法で見つめなければならないのかもしれない。盲人や芸術家がつねにそうしてきたように。一
この体験こそは彼の壮大な人類の生命の流れを取り巻くその後の研究における学術観を大きく飛躍させた出来事であったに違いない。
わたしは時折アート作品を目の前にして、脳天の内から新たな現象に触れたような衝撃を覚えることがある。新たなるイメージの世界はいつでも外側と内側の境を持たず私たちを驚嘆させる。アートの副産物のひとつであるのかも知れない.. .と、同時にアートの本質であると言っても過言ではなかろう。
今回、feel art zero の空間ではそうした、イメージからなる現象を想起させる3 人のアーテイストの作品をコレクションを中心に展開する。
京都在住の現代美術家、篠原猛史は2 次元、3 次元の領域を自由に行き来して我々人聞の意識を外から、内から眺め積極的なアプローチを持つ特異な作家である。ある種の浮遊感と秩序をもった直線や曲線で表現された世界。今回はモノクロームにドローイングされた作品群を中心に静かな戦標を放ちながらも情熱的な人間の手による仕事をみせつける両極の世界が広がる。
次に奥の空間には京都在住の彫刻家、宮崎豊治の1980年後半から長期にわたって取り組んでいる「眼下の庭」のシリーズからドローイングと立体作品を配した。概して空間とは、ある一点の視点から始まる切り取られたものであろうからと、ふと油断してその世界観を垣間見ると決して大きな寸法でないのにかかわらず、その佇まいは茶室から繋がる宇宙的な広がりを連想する見事な風景となる。
最後にご紹介するのは東京在住の若手作家、吉田和司の作品。日常でみかける道具類がユーモラスに非日常的な変貌をとげ、不可思議で危うい均衡を保っている。またその完成度の高さは工芸の世界、日本の道具の極みに通底する美しさをも併せ持つ。一種、超常現象にも似たその不思議な光景は私たちの脳を多いに揺るがしてくれるであろう。
またコレクションにおけるイメージと現象とは、作家の持つ世界観を再構築し、自らの世界を感性と体験を持って現す愉しき創造に他ならない。日々刺激される新しい世界の増幅に人類の限りない進化欲のー姿を見る。ただしその方向性とやらは単一ではなくあらゆる可能性を苧んでいることも忘れてはならない現実である。
正木なお
篠原猛史/Takeshi Shinohara
1951 京都市に生まれる1978-81 渡米1981 Pratt Arts Institute修了1982 ベルギー公費留学2005 スウェーデン公費留学/デンマーク公費留学1979 Drawing performanceでデピュー(ニューヨーク/U.S.A)1980 クラコ7 国際版画ビエンナーレ展(ウッヂ美術館/ポーランド) 1981 New York Sound Drawing(ニューヨーク/U.S.A)1983 プレミオ・ピエラ固際版画ピエンナーレ展(ピエラ美術館/イタリア) 1984 リエカ園際オリジナル・ドゥローイング・ピエンナーレ展(リエカ美術館/イタリア) 1985 国際青年美術家ビエンナーレ展(ネルベルト市立美術館/ポーランド)/ドメル7:;-7 国際ピエンナーレ展(ネルベルト市立美術館/ポーランド)/ロッヅ国際ビエンナーレ展(ロッヅ美術館/ポーランド) 1986パーゼル国際アートフェア(バーゼル/スイス)/バンクーパーEXPO'86(バンクーパー/カナダ) 1987 プダベスト国際“Art of Today.展(プダベスト美術館/ハンガリー) 1988 リュプリアナ国際版画ピエンナーレ展(リュプリアナ美術館/1日ユーゴスラピア) 1989 南ア7 リカの風と土(アクラ/ガーナ) 他、世界各地で展覧会多数開催2005 Circulation + Undulation(オールゴールヂン美術館/スウェーデン) 2006 篠原猛史ーピオトープの場展(美濃加茂市民ミュージアム/岐阜) 2007 サイクル+リサイクル展(愛知県立美術館/名古屋) 2008 behind the seenアート創作の舞台裏(東京大学博物館) 2010 r音を知る」芸術(愛知青少年公園/名古屋) 2011 子供の為のワークショップと展示(愛知青少年公園/名古屋) 他、個展多数gallery feel art zeroにて2009 Circulation+Undulation;循環と波動
宮崎豊治/Toyoharu Miyazaki
1946 石川県生まれ1968 金沢美術工芸大学美術学部彫刻科卒業1971 第1 回兵庫県美術祭(兵庫県立近代美術館/兵庫) 1973 日韓現代彫刻展(兵庫県立近代美術館/兵庫)/r しずかさと蝉の声/表現物と表現論」展(京都市美術館/京都)/1973京都ヴィエンナーレく集団による美術〉展(京都市美術館/京都) 1975 東京展(東京都美術館/東京)1976 アート・ナウ'76展(兵庫県立近代美術館/兵庫) 1978 神戸須磨離宮公圏第6回現代彫刻展(神戸市立須磨離宮公園/兵庫)1981 アート・ナウ1970-1980展(兵庫県近代美術館/兵庫) 1982 個展く今日の作家シリーズ>(大阪府立現代美術センター/大阪)1987 個展(INAXギャラリー2j東京) 1990 '90兵庫の美術家(兵庫県立近代美術館/兵庫)/美術の現在・4つの試み(和歌山県立近代美術館/和歌山) 1992 彫刻の遠心力一この10年の展開(国立国際美術館/大阪)/一石川の彫刻ー金属造形の作家たち{石川県美術館/石111) 1994 個展(Sasakawa Peace Foundation GalleryjWashington D C)/関西の美術1950-1970年代(兵庫県立近代美術館/兵庫) 1995 個展(リスンギャラリ-j京都内8 ,' 11 1997 個展鉄の彫刻宮崎豊治展(石川県立美術館/石川) 1998 個展(ギャラリーTAFj京都内9 ,' 01 ,'04 1999 個展(ギャラリーほそかわ/大阪)'01 ,' 03 ,'08 2001 金沢市現代美術館収集作品展(金沢市民芸術村/石III)/r宮崎豊治ー眼下の庭- J( 国立国際美術館/大阪) 2003 r金属の可能性を探るー現代作家による作品J(高岡市美術館/宮山) 2007 個展(リスンギャラリー青山/東京) 2009 おもろいやつらー人間像で見る関西の美術(徳島県立近代美術館/徳島)/自宅から美術館へ田中恒子コレクシヨン展(和歌山県立近代美術館/和歌山) 他
吉田和司/Kazushi Yoshida
1978 三重県生まれ2001 武蔵野美術大学造形学部油絵学科卒業2005-2∞7、2009 四谷アートステュディウム在籍〈個展> 2004 (ギャラリーゴトウ/東京) 2005 community(GALERIE SOLj東京) 2006 SCRAMBLECORRELATIVE(GALLERY OBJECTIVE CORRELATIVEj東京) 2007 時のおとしもの(GALLERY OBJECTIVECORRELATIVEj東京) 2011 Wandering series(森店/東京) <グループ展> 2001 ナンバー3( 目黒区美術館区民ギャラリー/東京) 2002 ト」キヨ」ワンダ」ウオール公募2002(東京都現代美術館/東京) 2003 ト」キョーワンダ」ウオール都庁2002(東京都庁/東京)/Li ghtln Heavy vo 1. 2(ギャラリーゴトウ/東京) 2004 Petit SOL展(GALERIE SOLj東京)/トーキョーワンダーウオールの作家たち展2000-2003(東京都現代美術館東京) 2005 sympathy of various senses(GALLERY OBJECTIVE CORRELATIVEj東京)/WONDER SEEDS( トーキョーワンダーサイト/東京) 2006 絵画三人展(GALERIE SOLj東京)/
Scrapple From the Apple(GALLERY OBJECTIVE CORRELATIVEj東京)/これがそれ(GALLERY OBJECTIVE CORRELATIVEj東京) 2007 open sesame(GALLERY OBJECTIVE CORRELATIVEj東京)/Explosion(BankART Studio NYKj神奈川) 2009 OPEN STUDIO 4jkodaira artists site( ミルク倉庫) 2010 明滅する皮下組織(庄原市役所他/広島)
2011 OPEN STUDIO 5jkodaira artists site( ミルク倉庫/東京)/所沢ピエンナーレ引込線(2011j埼玉)ミルク倉庫とLて参加/出張台所(路地と人/東京)ミルク倉庫として参加〈パフォーマンス> 2007 ~~興的道具考(BankART Studioオープンプログラム)/Experiment Supplement 05(四谷アートステュヂィウム/東京) 2009 Fussa Stolen Base(福生野球場/東京)(賞歴> 2002 トーキョーワンダーウオール公募2002入賞2007 Maestro Guant審査員賞受賞(四谷アートステュディウム) 他