vol.120
梶なゝ子 Nanako Kaji
たったひとつの小さな音から物語は始まった。
2019.6.22 - 7.7
一見、無機質な土の塊にみえるかもしれない。よく見ると、青みのある白、灰色がかった白、あるいは濃いグレー、淡いベージュ、無数の重なりは、時にやさしく、時に鋭い印象を残す陶土の群像である。そこに寄り添うにように、無作為に、しかし入念な感性で選ばれた自然物、人工物、造形物たち。
これらの詩的断片のような梶なゝ子の行為の合間に見えるのは、人智を凌ぐこの大地のもたらした大いなる存在である。そして、そこにほのかな畏敬の念を抱き、見えない憧憬をみる少女の様に無垢で、残酷なくらい鋭い一人の女性美術家の姿である。その作品を通して、いつも目の前には風が吹き抜けた痕のような静かでざわめく広大な風景がみえるのである。
Gallery NAO MASAKI
正木なお
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路傍の石にも、ヒトの価値観を越えた様々な記憶が、
何十億年という時の流れとともに宿っている。
全ての命が始まるずっと前から地球はあった。
空はただ青かったといえた時代、闇は闇として確かにそこにあった。
それぞれの命は、地の上で、その個としてのあり様をただ受け止め、
宙を仰ぎ、風を聞き、世界の意思に寄り添い、
今日という日をひたすら生きていた。
やがて、ひとつの事実が瞬く消し去られ、
新たな真実がいとも簡単につくられる時代がやってきた。
架空の価値が溢れ、自らの生きる場を確認する術を失い、
時の渦の中に帰還していくものたちは、
それ自身の物質性を露わにして、其処此処に散らばっていく。
戦いに勝ったものたちの歴史ではなく、
静かに世界を見はるかす無数の小さきものたちの歴史があると思う。
梶 なゝ子 Nanako Kaji
美術家、陶芸家
1976 京都市立芸術大学陶磁器科卒業 、八木一夫氏、他に師事。1978年に初個展を開催後、1980年 「アート・ナウ’80」 (兵庫県立近代美術館 ) 、2008年 「魅せられる…今、注目される日本の陶芸展」(滋賀県立陶芸の森、他静岡、東京、フランス、アメリカに巡回)、2018年 アンサンブルゾネ舞踊公演「迷い」に、造形パフォーマンスとして参加するなど、近年は陶芸だけだなく、インスタレーション、ドローイング、写真など分野を越えて、創作活動を行う。
〈主な個展開催ギャラリー〉
ナノ・リウム(富士吉田)、ギャラリー開(神戸)、アトリエ2001(神戸)、ギャラリーやまほん(伊賀)、ホップギャラリー(エストニア)など。
〈パブリックコレクション 〉
滋賀県立陶芸の森(滋賀)、モーリッツブルグ美術館(ハッレ、ドイツ) 、トヒソオ、マンションパーク(コヒラ、エストニア) アップライト工芸デザイン美術館(タリン、エストニア)
〈出版〉
作品集「陶 vol.44 梶なゝ子」京都書院、1992年
Gallery NAO MASAKI(旧gallery feel art zero) にて ―
〈個展〉
2013「家にかえる」
2010「遠く、風をきく 梶なゝ子」
〈グループ展〉
2015「something new, with feel art 10」
2019「辻徹追悼展 現 - Utsutsu -」






















