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VAGUE KOBE

かじおかみほ

Miho Kajioka

「And, do you still hear the peacocks?
今デモ マダ クジャクノ声 聞コエマスカ?」

2024.2.21 - 3.10

Open:12:00 - 18:00

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開催に寄せて

 

写真家 かじおかみほ。

最初に出会ったのは彼女が暮らすパリだった。帰国直前で慌ただしい心の私の無作法な出会いを前に、彼女は大切そうに持ってきた包みをひろげ、不思議な所作で”本”と呼ぶその箱に入った紙ををゆっくりと開いたり次の扉へと向かったりした。特殊な装丁のその本は、文字が折りたたんだページの裏側に印刷されており、覗かなければ読めないようになっている。

その紙の上のモノクロームの写真たちは、小さな記憶の断片のように空間にたゆたい、觀手の視点を遊ばせる。寂しげでもあり、儚げでもあり、心の琴線に触れる美しいその本は、東日本の大震災の当時、報道の記者として取材に明け暮れていた彼女がメディアでは伝えられなかった感覚やなにかがつもり重なり満タンの箱からスルリと飛び出してきたものでもあった。

その感情と記憶は、かじおかが大学時代から遠ざかってきたアートの世界へ戻るきっかけとなった。

 

「カチッと何かが切り替わる音がした。」とかじおかは言う。

 

かじおかは、写真という媒体を介在しながら自己他者も超えた記憶という風景、切り離せない時間という風景を描き出そうとしているようにみえる。

 

震災から5年後に生まれたこの写真の断片が連なる本を、その切れ端の重なりをめくりながら、わたしはいつしか涙していた。

触れたかったなにか、触れられなかったなにか。

 

この本を、重なりゆく縁と可能性の中で毎年どこかで桜の花びらに出会うように、その儚く不確かな記憶という感情を風景にするように、この作品を媒体に旅をし、出会い、暮らしの風景と交差させていこうと思った。

 

毎年3月、このあたりの季節に開催するのがいい、どこかで小さくても大きくても、1点でも、たくさんでも、プライベートでもパブリックでも、日本でも海外でも。

きっとその場所へつれていってくれると感じる。

 

東日本の震災から14年、そして、阪神・淡路で起きた地震から30年が経った。

不思議なタイミングでカチッと時計が重なり、神戸の街 でこの試みを始められることになったことを心より嬉しく思う。

 

正木なお 2025年春

Miho Kajioka『And, do you still hear the peacocks?』2025 開催に寄せて

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